• コラム| 文化財防災センター
更新日:2024年4月23日 17:46

文化財防災とは?-文化財防災スパイラル-

「防災」と聞くと、「災害を防ぐ」こと、すなわち「災害に遭わないようにする」ということと普通には思います。この考え方は間違ってはいないのですが、想定外の災害が起きることもあり、災害をゼロにすることはなかなか難しいという現実があります。実際には、「できるだけ災害に遭わないようにする」という考えで、様々な対策がおこなわれています。「できるだけ」ということで、このような取り組みは「減災」と言われています。「減災」という意味での「防災」は、言うなれば狭い意味での概念ということになります。

 災害が起きると、まず人命救助、避難所の開設、仮設住宅の建設がおこなわれます。これは、「救援」活動になります。そして、道路、水道、ガス等のいわゆる社会インフラの「復旧」が進められます。この復旧の過程あるいはその後の取り組みとして、同じような被害を生じないような様々な取り組みがなされます。これが先に述べた「減災」です。「減災」はあくまでも想定の範囲内でおこなわれる対策です。「想定外を想定」して、より厳しい災害が起きた時に、どのように迅速に「救援」活動をおこなうかをあらかじめ準備しておくことが重要となります。地域防災計画の見直しなどがそれに相当するでしょう。これは起こりうる想定外の災害に対する「事前の準備」ということになります。

 実は、この一連の「救援」、「復旧」、「減災」、「事前の準備」というプロセス全体が「防災」として定義されているものです。この一連のプロセスを経ると、被災前の状況よりも災害に対してより強い社会を作り出すことができます。災害は至るところで発生していますので、その経験や情報を共有し積み重ねていくことで、災害に対してより強靭な社会をつくりだしていくことができるものと考えられます。一連のプロセスを繰り返して次第に防災力を高める、すなわち、らせん状に防災力を高めていくということで、防災スパイラルという概念が出されています。

 文化財の分野でもこの考え方は同じです。災害により文化財が被害を受けると、被災した文化財の「救援」がおこなわれます。救援された文化財はその後、修理され、元の状態への「復旧」がおこなわれます。もちろん、完全に元の状態に戻すことは困難な場合が多いのですが、それでもできる限り元の状態に近づけることができるように修理等がおこなわれます。修理等を施された文化財は、元の所有者のところに返ることになります。しかし、また、同じような災害が起きることがあります。そのため、同じような被害を出さないための様々な対策がおこなわれます。残念ながら、想定を超える災害が起きます。そのような場合に、どのようにして被災した文化財を救援するかをあらかじめ考えて準備をしておくことが重要となります。これは災害に対する「事前の準備」になります。一般的な防災の概念と同様、文化財防災も同じ概念であり、文化財に対する一連の「救援」、「復旧」、「減災」、「事前の準備」というプロセスを繰り返して、より強靭な文化財防災体制を築き上げていくということで、私たちは「文化財防災スパイラル」と呼ばせていただいています。

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(文化財防災センター長 髙妻 洋成