• 普及啓発| 東京文化財研究所
更新日:2021年3月31日 00:00

【東文研】文化財防災に関する研修(博物館・美術館学芸員等)

令和21019日に、北海道の国立アイヌ民族博物館で「文化財レスキューと心理社会的支援」というテーマで研修会を開催した。文化財レスキューに対し心理社会的支援という切り口での研修は日本で初めての内容であった。本研修会は、国立文化財機構文化財防災センターと東京文化財研究所が主催、国立アイヌ民族博物館の共催、北海道博物館協会の協力を得て、実施することができた。また、ICCROM(文化財保存修復研究国際センター)の「First Aid and Resilience for Cultural Heritage in Times of Crisis」「Capacity building project on Culture Cannot Wait: Heritage for Peace and Resilience」のプログラムの枠組みで実施されており、スウェーデンのSwedish Postcode Foundationによって一部助成していただいた。道内の文化財行政ご担当者から博物館・美術館、埋蔵文化財センターと横断的な分野の方々にご参加いただいた。

東北大学災害科学国際研究所客員教授のJFモリス先生と上山眞知子先生に講義をしていただいた。モリス先生は「歴史資料保存と災害支援-歴史資料保存活動がなぜ、災害に強い地域づくりに貢献できるか-」というテーマで講演いただき、仙台防災枠組み2015-2030における文化遺産の位置づけから、ソーシャルキャピタル、レジリエンスというキーワードを用いて災害時の文化財レスキュー等がどのように心理社会的支援に結びついているのかをご説明いただいた。上山眞知子先生には「東日本大震災後の心理社会的支援-歴史資料レスキューへの期待-」というテーマで講演いただき、WHOが心理社会的支援の有効性を2005年に表明したことから始まり、 心理社会的支援はレジリエンスアプローチであり、被災地にいるすべての人々が対象となりポジティブ要因の強化となりうるとご説明いただいた。東日本大震災の時の歴史資料レスキューの具体的な事例をいくつかご紹介頂いた。

心理社会的支援という考え方は、少子高齢化が招く地域社会や未指定の文化財を未来に残す意義を見出すことにもつながり、文化財防災という枠組みの中でも非常に重要な切り口となることを感じる研修会であった。