• 文化財防災に関係する情報の収集と活用| 九州国立博物館
更新日:2021年3月31日 00:30

【九博】平成28年熊本地震時の熊本県内における対応の事例調査

平成28414日、16日の2回にわたり、熊本県熊本地方を震源として発生した震度7の地震によって、熊本県・大分県を中心に多数の家屋倒壊や土砂災害など大きな被害が生じた。熊本県では、熊本県教育委員会(県教委)を中心に熊本被災史料レスキューネットワーク(熊本史料ネット)、熊本県博物館協議会(県博協)、熊本県博物館ネットワークセンター(博物館NWC)、熊本県立美術館、熊本県立図書館、熊本市立熊本博物館、熊本大学、県内市町村とともに被災した動産文化財への対応を進めた。本災害においては、文化庁主導による「文化財レスキュー事業」(熊本県被災文化財救援事業。以下、レスキュー事業)が実施され、機構は文化庁の要請に応じてその活動主体に加わり、被災文化財の救援に従事した。

レスキュー事業は、熊本県、県教委に加え、博物館NWC、県博協、熊本史料ネット等の関係機関、県内市町村、さらに機構、九博が事務局を担った救援対策本部を主な実施主体とし、九州各県の教育委員会や推進会議参画団体等の協力を得ながら実施された[図1]。現場に近い場所で実質的な機動力を発揮するため、熊本県宇城市松橋町にある博物館NWCに救援対策本部の現地本部を設置した。この期間にレスキューされた文化財は28件、延べ944名が事業に参加した。文化庁主導によるレスキュー事業は平成28年度末に終了した。

しかしながら、熊本県内には未救出、未整理の文化財が残存していた。平成29年度は熊本県教育庁文化課(県文化課)を中心とし、「熊本県被災文化財支援事業(熊本県文化財レスキュー事業)」として、熊本県内関係者を活動主体に[図2]、引き続きレスキュー活動を継続した。九博はこれに協力する形で活動に関与した。平成29年度末で、博物館NWCに設置された現地本部は解散した。

平成29年度は17件、平成30年度は2件のレスキューを実施し、合計で47件の文化財が救出された。救出された文化財は応急処置ののち、所有者の受け入れ態勢が整ったものから順次返却が進められた。県内博物館等へ寄贈されたものや、指定文化財化を検討する作品もあったが、大多数は所有者へ返却された。レスキュー事業期間中に所有者へ返却が完了したものは僅かで、多くは平成29年度から、熊本県が定めた震災復興4か年計画最終年度である令和元年度までの間に作業が進められ、令和元年度末時点で44件の返却が完了した。所有者の家屋再建の遅れなどの理由で受け入れ状況が整わない文化財は、引き続き県の文化財保管施設で預かり、令和2年度末に47件すべての文化財の返却が完了した。

古文書類は熊本史料ネットの尽力で解題が作成された。この解題を添えて文化財を返却し、所有者に資料の持つ歴史的価値を理解してもらうという事も試みた。

平成292月に県が創設した文化財基金による補助制度により、従来の被災現場では金銭的理由により復旧を断念していたであろう多くの文化財が修復・保存されている。この基金の財源は、地元経済界や熊本県にゆかりのある人々を中心に発足した支援委員会が、平成287月から実施した民間による組織的な募金活動による寄付金である。補助制度はこの基金を原資とし、民間が所有する未指定を含む文化財復旧のための費用に充てるもので、歴史的建造物や動産文化財を対象とし、所有者負担額の1/22/3を補助する仕組みとなっている。この制度の対象となる文化財の選定や、修復のための工法等を審議するため、有識者による委員会(熊本地震被災文化財等復旧復興基金活用検討委員会)が設置された。

なお、本内容の詳細については、令和2年度文化財防災ネットワーク事業報告書、活動事例集を参照されたい。