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文化財防災に関係する情報の収集と活用| 九州国立博物館
【九博】平成29年九州北部豪雨災害時の福岡県朝倉市における対応の事例調査
平成29年7月5日にから6日にかけて発生した線状降水帯により、福岡県朝倉市・東峰村、大分県日田市を中心に短時間で記録的な大雨が降り、山塊の崩壊や複数河川の氾濫によって同市村に甚大な被害が発生した。
福岡県内では、朝倉市、東峰村を中心に、うきは市、添田町、川崎町で文化財の被害があり、福岡県教育庁文化財保護課(県)は、特に被害の大きかった朝倉市、東峰村と協議の上、県主導による文化財の被害状況の確認、緊急保護などの対応をとった。
福岡県が支援に入る際、まず朝倉市教育委員会文化・生涯学習課文化財係(市)と協議を行ない、以後、市の意向に沿って行動した。県職員の派遣以降、まず指定文化財の本格的な巡検が行なわれた。毎朝巡検に出る前に市の担当者と打ち合わせを行ない、行動範囲を決定、その範囲内の文化財所有者情報を共有した。報道等によって得られる被災範囲や被害の程度、人命捜索の進捗状況の情報を文化財の所在地と照合し、安全が確保された区域から巡検を進めた。県職員の巡検では、外見にて身元がわかるよう所属名の入ったヘルメット、作業着、腕章、職員ネームタグを着用し、土地勘のある甘木歴史資料館(甘歴)職員が同行した。
未指定文化財の巡検は、派遣開始から1週間程経って開始され、指定文化財と同じ手順で行なった。被災以前には県・市とも未指定文化財の体系化された情報(リスト等)を持っていなかったので、指定文化財の巡検と同時並行で、大学等の調査や市史編さん事業でまとめられた情報を県職員が収集し、リスト化・マッピングした。
巡検時には県と甘歴で作成した被災文化財受入れのチラシを住民の方々に配布し、情報収集を行なった。巡検の職員が保護の必要ありと判断した場合は、現地の状況を確認し、搬出に必要な人数・資材・運搬具等を見積もり、後日作業を行なった。
巡検中、重度の被害がある、もしくは廃棄される寸前のものがあれば、所有者の承諾を得て即時保護する場合もあった。緊急保護の対象選定は、巡検に当たる職員の裁量に任せた。所有者が明らかなものについては、「仮預り証」をその場で発行した。緊急保護された文化財の一時保管は、甘歴の敷地に隣接して存在する県の空き倉庫を活用した。損傷がひどく緊急処置を要する紙資料は、すみやかに九州歴史資料館(九歴)や福岡市埋蔵文化財センターに移送し、冷凍保管ののち真空凍結乾燥処置を施した。
受け入れ後の取り扱いについては、9月に市と県、九歴、甘歴で協議し、安定した状態に戻すための応急的なクリーニング作業や、目録の作成などを行なった。当初は九歴が学校文書の乾燥処置、クリーニング作業を担っていたが、翌年より市でクリーニング作業のための日々雇用職員を採用した。
処置が完了したものは順次返却していくが、所有者の受け入れ状況が整わず返却の予定が立たないものもある。それらについては所有者と相談の上、返却まで甘歴で保管することになっている。
なお、本内容の詳細については、令和2年度文化財防災ネットワーク事業報告書、活動事例集を参照されたい。