• コラム| 文化財防災センター
更新日:2025年6月 2日 09:00

災害時の情報伝達-日本語と防災の関係性

 災害時において情報を正確かつ迅速に伝えることは、被災地にいる人の安全を確保する上で不可欠です。しかし、日本語の表現や地域の方言が情報伝達に影響を与えることがあり、特に外国人や外部から支援に入る人にとって理解しにくい場合があります。こうした課題を解決するために、日本語学の観点から災害をわかりやすく伝える表現や、方言の活用などが研究されています。

<災害をわかりやすく伝える表現>
 近年、日本に居住する外国人が増加する中、災害時の多言語対応の必要性が高まっています。外国人向けの情報提供には、単なる翻訳だけでなく、日本語を簡潔かつ分かりやすくする工夫も求められます。
 阪神・淡路大震災を契機に、「やさしい日本語」の必要性が認識されました(1)。これは、難解な専門用語を避け、簡潔な言葉で情報を伝える取り組みです。例えば、「避難勧告」ではなく「すぐにげて!」と表現することで、直感的に危険を伝えられます。「やさしい日本語」は外国人を対象として検討された表現ですが、高齢者や子どもにも分かりやすく伝える役割を果たすと考えられます。
 また、多言語対応の観点から、東京外国語大学では避難所や自治体向けに多言語表現集を作成し、情報伝達の円滑化を図っています(2)。近年は自治体でも、多言語の防災アナウンスや緊急通知が導入され、外国人住民への迅速な情報提供が進められています。

<方言と災害情報の関係>
 地域によって異なる方言は、災害時の情報伝達に影響を与えることがあります。例えば、2024年の能登半島地震では、東北大学方言研究センターが「支援者のための知っておきたい能登方言」というパンフレットを作成し、県外の支援者やボランティアの円滑な活動を支援しました(3)。この資料には、聞き取りにくい発音や誤解しやすい用例の説明が含まれ、コミュニケーションの質を向上させました。一方で、方言を活用した防災教育の取り組みも行われています。岩手県三陸地域では「津波てんでんこ」という言葉が古くから伝えられています。これは「津波が来たら、いち早く各自てんでんばらばらに高台へ逃げろ」という教訓を含み、住民の防災意識を高める役割を果たしています。

 災害時の情報伝達には、正確性と迅速性だけでなく、受け手にとって理解しやすい表現の工夫が求められます。
 災害はいつ、どこで起こるかわかりません。だからこそ今できる準備として、情報の伝え方に目を向け、多様な人々が安全を確保できる仕組みを考え、行動していくことが求められます。

参考文献
(1)弘前大学社会言語学研究室『「やさしい日本語」作成のためのガイドライン』,2013
(2)佐藤和之,「大規模災害時の『やさしい日本語』表現」, 2024,日本音響学会誌80巻3号pp.147-152
(3)東北大学方言研究センター,『支援者のための知っておきたい能登方言』, 2024,

(研究員 三谷 直哉)