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コラム| 文化財防災センター
文化財防災センターにおける国際協力の取り組み --トルコ共和国文化観光省との交流事業について--
文化財防災センターでは、事業の一環として、文化財防災や被災文化財の救援に関する国際協力を行っています。災害大国である日本は、被災文化財への対応や文化財防災の分野で豊富な経験と知見を有しています。これらを諸外国と共有し支援に活かすとともに、諸外国の取り組みから学び、日本の文化財防災のさらなる発展を図ることを目的としています。
2023年2月6日、トルコ・シリア国境付近でマグニチュード7.8と7.5の大地震が連続して発生し、両国で6万人近くが亡くなるなど甚大な被害が発生しました(トルコ・シリア地震)。また、発災後の報道などを通じて、歴史的建造物やモスクといった文化遺産、さらには博物館も大きな被害を受けたことが伝えられました。
当センターでは、東京文化財研究所と連携し、国内の文化財関係機関やトルコ共和国文化観光省などから情報を収集した上で、2023年11月28日から12月7日にかけてトルコを訪問しました。現地では、被災地の視察、両国の文化財防災に関する情報交換(専門家会議の開催)、今後の連携に向けた意見交換を行いました。
被災地視察では、ハタイ、ガズィアンテプ、シャンルウルファの博物館や文化遺産を巡り、被災後の対応や現状、課題について各博物館の職員らから聞き取りを行うとともに、今後の支援ニーズを調査しました。訪問時、被災した博物館では応急対応を進める一方で、建物や文化財の本格的な修復に向けた準備が進められていました。なお、シャンルウルファでは地震発生翌月の3月14、15日の大雨による洪水が発生し、同地の博物館では地震の被害は比較的軽微だったものの、浸水による深刻な被害が発生しました。
専門家会議は、アンカラのトルコ共和国文化観光省において、同省との共催で実施しました。日本側からは、日本国内の文化財防災の概要を紹介した上で、東日本大震災をはじめとする被災文化財救援の事例や、博物館における災害予防の取り組みを報告しました。トルコ側からは、今回の地震による文化財被害や対応の概要、博物館における防災対策などについて報告がありました。
意見交換を進める中で、トルコの復興に向け、日本の文化財防災や被災経験の伝承に関する取り組みを紹介することが大きなニーズの一つであることが明らかとなりました。これを踏まえ、2024年度にはトルコの文化遺産関係者を日本へ招聘し、日本の文化財防災の幅広い取り組みを紹介することとなりました。
2025年1月24日から2月2日にかけて、トルコ文化観光省の文化遺産・博物館関係者ら10名を招聘し、各地を視察しながら以下の取り組みを紹介しました。
・法隆寺における文化財防火デーの活動および、1949年の火災で焼損した金堂壁画の保存に関する取り組み
・阪神・淡路大震災(1995年)における被災文化財の対応(特に近代を含む文化財建造物の修復事例)および被災経験の伝承
・東日本大震災(2011年)の原子力災害下における文化財保護と被災経験の伝承
・令和6年能登半島地震(2024年)および2024年9月の豪雨による被災文化財への対応(国・県・市町における取り組み)
・東京国立博物館・国立西洋美術館における災害対策
・日本における一般防災教育の取り組み
これらを通じて、日本では大規模災害が発生するたびに防災対策が強化されてきたことに加え、被災経験を後世に伝承するための有形・無形の取り組みが実践されていることも紹介しました。来日した方々からは、被災経験の伝承に力を入れていることに対する関心と敬意が示され、トルコでも同様の取り組みを模索したいとの意見が寄せられました。
2025年度以降もトルコの復興に資する支援や意見交換を継続するとともに、トルコで実践されている文化財防災・被災文化財救援の取り組みからも多くを学びたいと考えています。こうした知見は、文化財防災センターの活動を通じて、日本国内の文化財関係機関とも共有していく予定です。
*本交流事業は、文化庁の以下の事業を受託し、実施しています。
2023年度:令和5年度緊急的文化遺産保護国際貢献事業(専門家交流)
「トルコにおける文化遺産防災体制構築を見据えた被災文化遺産復興支援事業」
2024年度:令和6年度文化遺産保護国際貢献事業
「トルコにおける文化遺産防災体制向上のための拠点交流事業」
(研究員 千葉 毅)
トルコ・シリア地震で被災したハタイ考古学博物館の視察(2023年度)
法隆寺の焼損壁画収蔵庫の視察(2024年度)
今後に向けた意見交換(2024年度)