• コラム| 文化財防災センター
更新日:2024年5月28日 12:00

【令和6年能登半島地震 現地レポート】能登半島の漆塗り

 令和6年1月1日。皆さまご承知の通り今年の元日に能登半島を震源とする令和6年能登半島地震が発生しました。この地震で犠牲になられた方に哀悼の意を表すとともに、被害にあわれた方々にお見舞申し上げます。
 この地震により文化財についても大きな被害が発生しており、当センターでも現地で活動をさせていただいております。今回は、この5ヶ月間現地に赴き感じたことをお話しさせていただきます。
 能登地方に行って感じるのは、能登の人たちは能登の文化を大切にしているということです。その多くは、必ずしも文化財として意識されていません。しかし、外部の目から見ると十分地域の文化財として、暮らしの中に根付いていることがわかります。能登半島地震の被災状況を伺うなかでよく出てくるものとしては、輪島塗があります。もちろん輪島塗は今回の地震で最も注目された文化財でもありますが、この地域における塗り物としてみると、高級漆器である輪島塗とはもう少し違った点がみえてきます。
 まず第一に非常に多くの家で、一揃いの漆器の膳椀を所有しているということが上げられます。揃いの膳椀が何セットもあることも珍しくありません。話を伺うと、こうした膳椀は現在も使われているとのことです。こうした漆器を個人宅で使うことはめっきり少なくなりましたが、まだまだ生活の中に漆器が生きているようです。
 漆塗りというところからこの地域をみると更に広がりがあります。この地域ならではの習慣として、家の目立つ柱に漆塗りを施すということもあります。立派な家であることの象徴とのことです。いわば大黒柱が漆塗りを施している感じでしょうか。
 奥能登の各集落では、キリコと呼ばれる燈篭が集落内を練り歩くキリコ祭りが盛んに行われています(石川県観光連盟ウェブサイト「ほっと石川旅ねっと」※外部リンク)。キリコは、一般に4メートルから6メートルほどの大きさの縦長の燈篭で、最大のものは10メートルを超えます。このキリコもまた漆塗りが施されます。そして、ここでも話しを伺うと、集落で持っている大きなキリコ以外にも、初孫の誕生を記念してといったように、個人を記念したキリコもつくられ、祭りの日には家の前などに飾られるそうです。この個人のキリコは、ミニチュアサイズのキリコですが、やはり漆塗りが施されます。
 輪島塗は高級な膳椀そして作品としての漆芸品だけではなく、暮らしに密着した特別なものとしてこの地域に根ざした存在です。被災した文化財の救出活動では、貴重な文化財を救出するだけではなく、こうした地域に根ざした存在である文化財にも着目し、活動を進めていきたいと考えています。

(文化財防災統括リーダー 小谷 竜介)